右肩の蝶、飛んだ。




駅かと飛ばして20分。
電話で予約していて良かった。すぐにテイクアウトすると、またぐるぐると飛ばして蝶矢は駐車場に車を止めた。



かつて私と蝶矢が息を潜めて過ごした夜を閉じ込めた場所。

ボロボロの崩れそうなアパートは消えて、代わりに有料パーキングになっていた。

3月のお雛様祭り期間なら、このパーキングも利用があるかもしれないけど、行事もない今、ここはがらんとしている。真っ黒な地面に月が反射するか落ちてくれば、嫌な思い出も消えてくれるのに。

「夜中にお腹が空くのが今でもトラウマ」

蝶矢は二個も買ったハンバーガーを両手に持って食べ始めた。

お腹が空いた頃を見計らって私が残していたご飯をあげていたのに、何を言うのか。

「でもさ、いつまでも過去に捕われるのって馬鹿みたいじゃない?」

大きな歯型を付けたハンバーガーを持って蝶矢は言う。

「俺の今のマンションからこのパーキングは見えるよ。小さい。虫か蟻みたいに小さい。ちっぽけで、踏んだらプチって言ってしまいそう」

「踏んじゃえ。踏んじゃえ」


「胡蝶もだよ。今、自分は昔の殻を脱ぎ捨てて、普通の女の子のふりをしてるって自虐的だけどさ。それって、俺のせい? 俺が胡蝶が欲しくて羽をもぎ取ろうとしたあの日がトラウマだから? 俺を犠牲にして生きた自分には惨めが似合う?」


「今日は饒舌だね。そんな話嫌い」