掴まれた腕は咄嗟に振り払おうとしたが凄い剣幕で離れなかった。
「あはは。ちょっとあの石垣さんつついて帰ろうとしただけなの。あんたの立場を利用しただけ。でもホテルを出たら利用も御しまいだから、――蝶矢なんて待つ必要がなかったの」
「あの婚約者に妬いてくれて――?」
「全然全く違うから、厚かましい考えは止めて」
蝶矢のありえない発想についきつく否定してしまった。
――
「ごめんね。やっぱ私、あの子見て思った」
「諒子? あ、や、石垣?」
「大丈夫。そういう嘘が下手な方が私も自由にできる。カバン、返して」
名前で呼ぶと言う不自然さに思わず笑う。婚約が嫌なら、もっと抵抗して見せれば良いんだ。蝶矢もまた、私みたいにふわふわ舞ってる。
「……一時間だけ、美崎さんの時間を頂戴」
「やだ」
一時間、その時間は電車の最終に間に会う時間だった。
「私、まだ美崎じゃないから」
一瞬、傷付いた顔をした蝶矢は、私のその言葉に顔を上げた。
「胡蝶の一時間をくれる?」



