右肩の蝶、飛んだ。


「日田って何が有名? 山に囲まれてるから、山?」
「そうですね。昔はワイン工場がありましたけど、今はビールになってるし。観光祭ぐらいしか私は……」

饒舌になってしまった後に、ハッとして口を押さえても遅い。

「へえ、流石胡蝶。ちゃんと取引先の名物を熟知してるね」
「た、直臣さんが調べてなさすぎます」

直臣さんが鋭い人じゃなくて良かった。
大体の事は、笑って流してくれる様な優しい人だし。
優しいからか他人に興味無いのか、適当なのか。
彼がもう少し仕事に意欲的だったら、こんなに傾かなかったかもしれないけれど、それが彼らしくて私は好きなのだから、惚れた弱みだ。


「電車で一時間ちょっとなら大分も遠くないよね」

駅弁をとうとう平らげ、ごそごそとカバンから歯磨きセットを取り出しながら彼が笑う。そんな、そんなちょっとした事なのだけど、歯磨きセットを常備してる彼が可愛い。