ただそれだけの人生だ。
満身創痍だったから、今歩いている道は進むのが遅く、どこでもいい、どうでもいいと手を離せる場所だった。
「どっか少しでも傷つけたら、飛べなくて俺の中に落ちてくるしかないよな」
「それが本音?」
「本音に見える? 俺が余裕あって落ちついていて――満たされているなら美崎さんを家に連れ込んで酷いことしようとしないでしょ」
酷いこと。
過去のトラウマを呼び起こした黒色の下着のことを、意外にも蝶矢は重々しくうけとめてくれたのか。
「もうその件はお互い忘れよう。擬態してる私たちは、普通に結婚して、普通に幸せになった方がいいよ」
いくら幼少期に家族が機能せず、心が不完全だったとしても、今、こうしてちゃんと溶け込んでいる。
「擬態したまま幸せになっても、それは幸せも擬態じゃないの」
虚しいと蝶矢は言いたいのだろうか。
でも、教会に到着すると、可愛らしい女の作業員がいっぱいいた。
疑似花嫁を担当するモデルさんとか、メイク担当、衣装担当、会場設営に走り回る一生懸命な女の子。



