家族よりも大切だと言いきった社長に私を紹介するのは、緊張もそうだけど、三人で対面するその場を想像しただけでもカオスだ。


「で、いいのかな? 沈黙なんて悲しいな」

「直臣さんは私でいいの?」

踏みきれない理由は、彼の事にも、私自身のことにも多くあるのだけれど、忠臣さんはこんな関係、上手くやっていけるつもりなのかな。

こんな、素性の不明な私で、いいのかと。
彼ならば、もっといい条件で、心が広い相手が幾らでも見つけれそうなんだけど。

「君が俺に手のひらに飛び込んで来たんでしょ? だったら君は俺のものだから」


ああ、納得。


結婚と言う檻の中に、自分のものである私を閉じ込めたいのね。


「東京への出張、一緒に行こう。そこで彼女に君を紹介する。いいね?」


後ろから抱きしめられながら、彼はグラスを握ろうとしていた私の手を取り、指輪に口づけた。
そんな仕草や、口づけした目を閉じた顔。
全て王子様の様に美しくて素敵なのに。


満たされないのは、私の右肩に乗る見えない蝶のせい。