~20年前の記憶~



俺にとって中学生最後の夏休みなのだか、それは親にとっては働き手がひとり増えるだけの嬉しい期間である。

学校が休みになるや、さっそく朝から晩まで畑仕事である。
まぁ、いずれ家業を継ぐ俺にとってこれは宿命だと諦めるしかなかった。
野菜相手の仕事だから、家族揃って遠出することもできず、俺にとっては学校がある期間の方が寧ろ楽しく思えた。


この労働から解放されたのはお盆になってからだった。
親もさすがに俺がかわいそうに思えたのだろう。
お盆の1週間は畑仕事を手伝わなくていいと言われた。

俺はその言葉に喜びいさんだ。
まぁ、だからといって特にすることも無かったので、俺は真新しいリールとロッド、それにルアーを持って毎日釣りへ出掛けた。

村の下を流れる川では天然のヤマメやイワナを釣ることができた。
水量も豊富な清流で、ルアーの釣りも充分楽しめる場所だった。

魚が釣れようが釣れまいが、ルアーを投げているだけでも楽しいものだった。




俺は朝マズメを狙い日の出の時間から川に行った。
川の水面は薄い朝日を受けキラキラと輝いている。
岩場に目を向ければ、孵化したばかりの蜻蛉がその羽根を伸ばしている。
時折、輝く水面に捕食のため姿を見せる魚影が見えた。

俺はひとりほくそ笑んで、川に向かいルアーを投げた。