俺はその声に振り返った。

そこにはひとりの若い女性がいた。

彼女は溢れんばかりの笑顔で俺を見つめていた。


誰だろ?


とりあえず、俺はぺこりと会釈をした。


この村の人ではない。
若いこんなきれいな女性などこの村にはいない。

そう、こんな若い女性がいたら俺だって、未だ独身でいなかったはずだ。
まぁ、これは未だに結婚できない言い訳にすぎないが………


視線の先の彼女の口が再び開いた。

「森山岳志さんですよね?私のこと覚えていませんか?」

彼女は俺の名前を口にした。
だが、俺にはさっぱり心当たりがなかった。


「た、確かに俺は森山岳志だけど、どこかでお会いしましたっけ?」

俺は失礼と思いながら、そう彼女に訊いた。


「あぁ~、覚えてくれてないのねぇ~。じゃあ、約束も覚えてないんでしょ!」

言葉は怒っていたが、彼女の顔は微笑んでいた。

まぁ、彼女本人と会った記憶がないのだから、約束など覚えているはずがない。


「しょうがないなぁ」

彼女はツカツカと俺に近づいて、おもむろに俺の両手を握り締めた。
そして、俺の顔の間近に彼女は顔を寄せた。
きれいな瞳が俺を見つめる。
その瞳に映っている俺の顔が見える。


次の瞬間、体の底からなんとも言えぬ懐かしい感覚が湧き起こった。