農家の朝は早い。
特に夏の収穫期は朝露の乾かぬうちに畑に出る。

畑一面に広がるレタス。
その緑は俺の気持ちを嬉しくしてくれる。


『高原のレタス』そのブランドイメージでそれなりの収入を確保している。
もちろん、仕事には誇りを持って1個1個精根込めて作っている。

薄明るくなった明け方の空を見上げながら、大きく深呼吸をした。

肺に広く染み渡るこの清々しい高原の空気が大好きだ。
この村で産まれて35年、この空気を吸い続けた俺にとって、ここ以外の空気は受け付けないかもしれない。


朝露が消えないうちにひとつひとつ丁寧にレタスを収穫する。
近くの林からカッコウの鳴く声が聞こえる。

澄んだ空気の中、響くその声は仕事のリズムを滑らかにしてくれる。

俺はリズム良く収穫に没頭する。
額に浮かび上がる汗すら心地よい。




日の光が眩しく朝露を照らし始めた。

俺は朝の収穫を一旦終了して車に戻った。

首から下げたタオルで汗を拭いながら、タバコで一服する。

緩い風に乗り、タバコの細い煙は青い空に薄れていく。




「おはようございます」

不意に背後から声をかけられた。