天野百合は、とても大人しい子供だった。




いや、『大人しい』と言うのは、適切な表現ではないかも知れない。




何故なら、 天野百合は、『大人しい』の一言で終わるくらいの軽度な無口ではないからだ。




ただ、無口と言う字の如く本当に何も喋らない。



それだけだが。それだけなのだか。


たかが、それだけの事で周りの人間の態度はがらりと変わる。




彼女はそんな自分の性格を嫌っていた。



無口で、何も喋らない。

無口で、何も喋れない。



そんな自分を、ことごとく嫌っていた。



勿論彼女は生まれつきそんな性格だった訳ではない。



彼女なりの理由があるのだ。


まぁ、その事については後々明かされる訳だが。





誰がなにを聞いても、何も答えない。

否、答えられない。



それは、何も知らない人間から見れば無視されているように見えるだろう。





だから、苛められた。嫌がらせを受けた。


なんとなく。気にくわないから。
そんな些細な理由でも苛めは簡単に勃発するのだ。



彼女は、自分の家族にも口数が少なかった。

でも、家族には必要最低限の事は喋る事は出来た。



だが、苛めの事については家族にも言わなかったのだ。