「お待たせしました、コーヒーです」



珍しく一人でやってこられた男のお客さん。
帽子を深くかぶりおどおどとした少し挙動不審な男の人だった。

こういう場所が苦手なのかな?
頑張って、入ってみたのかな?
なんて微笑ましく感じながらコーヒーを置こうと差し出す。




「あ、あ、ありがとう・・・っあ!」

「きゃっ・・・あつっ!」





私が置こうとしたカップをその男の人が手で受け取ろうとして慌てたようでカップがソーサーの上で倒れ私の手にホットコーヒーがかかってしまった。
あまりの熱さに手を放しそうになるのを堪え、カップを引き起こす。




「すみません!お怪我はありませんか?」

「す、すみません、すみません!」



恐縮してしまって男の人は顔を青ざめている。
騒ぎを見て加奈子が雑巾を持ってきてくれた。



「すみません、すぐに新しいものに変えてきますね」




私は加奈子に任せ、お客様にそう言ってその場を離れようとした。