「飯塚六郎!好きなんですか!?」
飯塚六郎―――。
幅広いジャンルを手にかける小説家だ。
彼の描く小説は、描写が細かくまるでそこにいるかのような錯覚に陥る。
特に人物の気持ちの移ろいを描くのが得意な彼の小説は、私もほとんどのものを読破したくらい傑作だ。
「・・・あ、はい」
「いいですよね!このお話、主人公の想いがすごく切なくて、感動してすごく泣けました!これから読まれるんですか?おすすめです!後、この人の小説だったら・・・」
自分が好きな小説家の本を持っているのを見て、感動してしまった私は思わず詰め寄るように話し続けていた。
驚いたような表情の彼を見たところで我に返り言葉を噤んだ。
「す、すみません・・・。興奮してしまって」
「ははっ、いえ・・・。好きなんですか?」
「は、はい・・・。あまり本は読まないんですけど、その人の小説だけは大好きで」
恥ずかしくて俯きながら言葉を交わす。
彼は、嫌そうな顔をせず私の話を聞いてくれていた。


