「いらっしゃいませ!」
鼻を膨らませる勢いで迎えると、入ってきた男の人は驚いたように目を見開くけど、すぐに表情を戻す。
「仕事しろ、店員」
「むー」
冷たくあしらわれふて腐れる。
そう。
この冷たい男こそ私の彼氏。
夏目椋平27歳。
このカフェの近くのオフィスで働く会社員だ。
こうしてお昼休みになるとここにランチを食べに来る。
私たちの出会いも、それでだったんだ。
「ご注文は」
「んー。サンドイッチで」
「サンドイッチでいいの?お腹すかない?」
「仕事しながらだから、片手で食べられるものがいいんだ」
「休み時間まで仕事・・・。大変だね」
「そう。大変なの。わかったらそっちも仕事しな」
しっしっと手で払われ、渋々私は注文をキッチンに通しに向かう。
いつもこう。
毎日通ってくれるのは嬉しいんだけど、甘い感じになんて全くならないんだ。
椋平にとって、私っていったいなんなの?
時々そう聞きたくなる。


