最近、何となく違和感を感じる。
それが何なのか、確信に至るまではいかないのだが。

なんとなく、おかしい。
そんな程度の錯覚のような感覚。




「あの人、仕事してないのかな?」




加奈子が怪訝な顔で呟く。
その視線の先にはおどおどした控えめな男の人。

毎日とまでは言わないが、頻繁に通ってくれる常連さんだ。
カフェに似つかない風貌にすっかり加奈子はいやでも覚えてしまったらしくそんなことを言う。

別に、ああいう男の人がカフェにいてもいいじゃないかと私は想うのだけど。
確かに、コーヒーひとつで数時間カフェに入り浸る、不思議なお客さんであることは間違いなかった。




「あの人、チラチラ未侑の事見てるよ」

「ええ?ウソ」

「未侑が見てないときを狙って」

「勘違いじゃないの?」




そうは言ったものの、時々視線を感じることは確かにある。
注文かと思って見た時には慌てて反らされる。
だから目が合うことはめったにないんだけど。

東雲さんから解放されたと思ったんだけど・・・。


あの日以来、東雲さんはぱったりと見なくなった。
あれほどしつこかったのに、なんともあっさりしたものだ。