自分の席に着いたまま、永愛はエモリエルを眺めた。憧れ半分、劣等感半分の心持ちで。

(私は地味だし、人と話すのも苦手だし。エモリエル君みたく完璧な人は、こわいものなんて無いんだろうなぁ)

 エモリエルと比べ、無いものだらけの自分が嫌になった。あまりに見つめていたので、とうとう彼は永愛の視線に気付いた。

(まずいっ、見つめてるのバレた!?)

 あわてて目をそらしたものの、今度は向こうからの視線を感じて永愛の顔はみるみる赤くなる。エモリエルは芸能人やモデルのように、非現実的な雰囲気の持ち主のわりに存在感がある。そんな人物に見つめられ永愛が萎縮してしまうのも仕方なかった。

(どうしよう。ジッと見つめた上に目をそらすなんて、変に思われたかな!?気持ち悪がられたかも!)

 うつむいたまま悪い想像を走らせていると、エモリエルを囲んでいた女子達が再びざわついた。アイドルやタレントのおっかけをする人特有の黄色い声で。

 下を向いたまま固まる永愛の鼻にふわりと甘い匂いが届くのとエモリエルから話しかけられるのは、同時だった。

「はじめまして。あなたもこのクラスの生徒なのですよね」

 ちらっとそちらを見ると、綺麗な瞳と目があった。エモリエルが、中腰になって永愛の顔を覗き込んでいる。

(わっ、私に話しかけてる!?)

 永愛は動揺し、そのせいで人見知り加減を増幅させてしまい、口ごもってしまった。

(どうしよう。話しかけられるだなんて思わなかったから何て言えばいいか分からないっ!っていうか、転入生なのにどうして私なんかの席まで来るの!?あの子達と話してたんじゃないの?)

 永愛の思った通り、エモリエルに話しかけていた女子達はいっせいに永愛とエモリエルを見て言った。

「エモリエル君、その子いつもそんなんだから放っておいていいよ。うちらもあんましゃべったことないし!話しかけるだけ無駄なの。だから、うちらともっとしゃべろ?エモリエル君のこと、色々聞きたいなぁ!」

 女子達は永愛に冷ややかな目を向けると、次の瞬間には天使のような笑みをエモリエルに向けた。クラスでも目立たない地味な女子に対する風当たりは強い。

 しかし、永愛もそれに腹を立てたりはしない。女子達のこういった言動に慣れてしまったのだ。

(分かってる。その通りだよ。私と話したがる人なんて、なっちゃん以外にいない。昔からそう。おとなしい人は、こうやってクラスで浮く)

 秋良宗と付き合うことになってから、さらに周りの言動が厳しくなったことも察している。

(人気者の秋良君と付き合えたんだもん。このくらい我慢しないと…!)

 とはいえ、クラスメイトの鋭い言葉に傷付かないわけではなかった。むしろ毎回傷付き、その度に人と話すのがこわいという思いに拍車がかかる。悪循環だ。