「じゃーね!また後で話聞くから落ち込むなー?」

 いつもの笑顔で立ち去る奈津に、永愛は愛想よく手を振りつつ、内心ただならない気分でいた。

(なっちゃん、最近性格きつくなった?考え過ぎかな……。秋良君に告白して付き合えることになった時「よかったね!」って言ってくれたもんね…?)

 ざらつく気分で教卓を見ると、教壇に立つ担任教師が出入口に向かって手招きをした。

「さあ、入って。皆さん、今日は転入生の紹介をします」

 夏休み前の中途半端な時期に、転入生。教室は一気にざわついた。

 中に入ってきた人物を見て、生徒達の声はさらにうるさくなる。特に、女子生徒達の声が明るく響いた。

「かっこいい!」
「外国人!?どこの国の人だろ?」

「皆さん、静かに」

 担任教師が転入生の紹介をした。

「彼はエモリエル=エスペラール君です。海外で働くご両親と離れ、日本の親戚の家で暮らすことになったそうです。彼も皆さんと同じ14歳になります。さあ、エモリエル君、挨拶を」
「はじめまして。エモリエル=エスペラールです」

 落ち着いて涼やかなエモリエルの声と容姿は、女子生徒達の心を一瞬にして奪った。そんなことは少しも考えず、エモリエルは無難な自己紹介をする。

「日本に来たのは初めてで慣れないことも多いので、色々と教えていただけたら助かります。言葉は分かりますので。どうかよろしくお願いします」
「上手な日本語ですね」

 担任教師も、エモリエルのなめらかな言葉遣いに感心している。

 異世界から来たことを隠し、こうして日本語を話せるのは、ABU対策室の協力のおかげだった。不便なく任務を遂行するため、地球の様々な言語を理解するアイテムを、エモリエルはジョセフ司令官に持たされている。


 シルバーブロンドの髪とエメラルドグリーンの瞳。清潔感漂う仕草に綺麗な肌。おとぎ話に出てくる王子様のような彼の容姿は、地味と言われる黒の学生服すら派手で重厚な衣装に錯覚させる。

 朝のホームルームが終わってすぐ、エモリエルは女子生徒達に囲まれ質問攻めにあっていた。

「どこの国から来たの?」
「本当に同い年なの?大人っぽいよね!」

 それらの質問に動じることなく冷静に答えるエモリエルの姿は、永愛の目にアイドルのように映った。

(エモリエル君、すごいなぁ。転校初日なのに、もうあんなに人気者になってる。昔の私とは大違いだなぁ……)

 かつての永愛も転入生だったが、エモリエルのようにチヤホヤされたり、生徒達とスムーズに会話なんて全くできなかった。

(皆が惹かれるのも当然だよね。あの見た目だもん。話し方も丁寧だし、外国人とは思えないくらい日本語話すの上手だし。いいなぁ……)