「誰?友達なんて、私にはいないよ……。ほしいと思うのもおこがましいことだった」

 頭から布団をかぶっていた永愛の声は、母親には聞こえなかった。

「上がってもらったわよ。学校帰りにわざわざお見舞いに来てくれたんだから、ちゃんとお礼しなさいよ?後でお茶持ってくから」
「お母さんっ!私一応病人なんだけど!?」

 布団をはねのけ、永愛は起き上がった。

「それだけ元気ならもう心配ないわね」

 はじめから娘の仮病を見抜いていたらしい。母親はクスリと笑い、「気が向いたら行きなさいよ、学校」と言い残すと部屋を出て行った。

 母親と入れ違いに、瑞穂とエモリエルがやってきた。

「エモリエル君…!どうして!?って、ちょっと待って、私部屋着だし恥ずかしいから!」

 目の前の出来事について行けずあわててベッドに体を隠す永愛に、瑞穂とエモリエルは愛しげな視線を向けた。

「お久しぶりです。永愛さん」
「俺達、話したいことがあるんだ。永愛に」

 二人は、それぞれの言葉で永愛への気持ちを告白した。

 すでに魔力を失った永愛だったが、おまじないの効果で瑞穂を振り向かせたわけではないことを知り、じょじょに自信をつけていった。

 それは、臆病な少女が大人になっていく、少し前の物語。

 自分を愛することで初めて、他人を愛し受け止めることができることを、この時の永愛はまだ知らなかった。









【完】