「正確に言えば、エモリエルは俺の中で生き続けてる」
「どういうこと?」

 永愛は瞳を潤ませ瑞穂の顔を覗き込んだ。

「永愛の力をかすめ取ったエモリエルは、その力ごと俺の中に自分の魂を封じ込めた」

 瑞穂は永愛の手を取り、その能力で占いの結果を伝えた。その時、記憶から消えていた出来事が、永愛と瑞穂の脳裏によみがえる。

 失っていた短期間の記憶は、二人にとっては何十年分にも感じる重みがあった。その重さに体が動かなくなりしばらく沈黙していたが、少し経って永愛が先に口を開いた。

「思い出せてよかった。忘れちゃいけないことだった」
「そうだね。俺もそう思う」

 つないでいた手を離し、永愛は瑞穂に言った。うつむく彼女の声は震えていた。

「私達、もう会うのやめよ……」

 瑞穂とは正式に付き合っていたわけではない。しかし、重すぎる現実を前に、永愛はそれしか言えなかった。瑞穂と両想いになれたのは、かつて自分が強力なおまじないを使ったせいなのだと知ってしまったから。

 真実はそうではない。瑞穂は元々、永愛がおまじないを使う前から彼女のことが好きだった。瑞穂はそう伝えたが、永愛は聞き入れなかった。

「私達、一番犠牲にしたらいけないものを犠牲にした。そんなこと知ったら、今まで通り瑞穂君と仲良くなんてできないよ……」
「分かった……。今までありがとう。永愛。大好きだよ」

 永愛の気持ちを受け入れた瑞穂は、静かに部屋を出て行った。

 瑞穂の気配が遠くなってようやく、永愛は大声をあげて泣いたのだった。

(エモリエル君、ごめんね。私、何もできなくて、弱虫で、いつも他力本願で、自分でどうにかするってことをしなかった。だからエモリエル君を……。本当にごめんね…!)


 叶うのなら、もう一度エモリエルに会いたい。そう思ったのは永愛だけではなく、瑞穂も同じだった。

 永愛に別れを告げられた後、その足で自宅に帰った瑞穂は、部屋に閉じこもり一人考えた。

 自分にとって、ソウルメイトとは何か。エモリエルがどういう存在だったのか。

(大人になることを受け入れられたのは、エモリエルがいてくれたからだ…!)

 同い年のエモリエルと、悲しみや喜びを分かち合ったから。孤独な時には感じなかった優しい気持ちを、エモリエルと知り合うことで学んだから。

「会いたいよ。エモリエル…!」

 早くに親を亡くしたエモリエルは、離婚で感じた悲しみに誰よりも深く共感してくれた。そうやって、誰にも言えない悲しみを受け止めてくれる相手に出会って初めて、瑞穂は人に優しくする余裕が持てた。

「最近、いなみに言われたんだよ。『優しくなったね』って。それは、永愛を好きになったから。エモリエルがありのままの俺を受け入れてくれたから。二人のおかげなんだよ」

 それでも、エモリエルは自分と同じ14歳の少年。まだまだ子供だし、大人ほど世の中を理解しているとは言えない。

「だから、これから一緒に成長していきたい。友達ってそういうものだと思うんだよ。エモリエル……!」

 同じ目線で考え、様々な感情を持つことができる喜びを、エモリエルや永愛と共に感じたい。心からそう思った。