新学期が始まって数日が過ぎた。

 学校では女子に避けられ、かつて友達だった同じクラスの奈津にも嫌悪感をむき出しにされ居心地の悪い思いをしていた永愛も、瑞穂やいなみと関わる時間だけは幸せだと思えた。

「私も親が別れた時色々ウワサされたから分かるけど、外野は当事者の事情も知らず好き勝手に言うからね。放っておくのが一番」
「そうだよね。ありがとう、いなみちゃん」

 いなみの呼び方が親しみのこもったものに変わったのも、永愛の心境の変化のひとつだった。

 はじめは瑞穂を通して接するだけだったいなみと、いつしか個人的に関わるようになっていた。今では廊下で会うたび長い立ち話をしてしまうほど親しい。

(いなみちゃんが瑞穂君の彼女だって思い込んでた時は嫉妬心で苦しかったけど、今は大切な友達だって心から思える……)

 勉強、性格、学校生活。全てにおいて自分より優れたいなみに全く劣等感を覚えないといったらウソになるが、そんな素晴らしい友達と仲良くなれたのは自分を成長させるためのチャンスが巡ってきたからなのだ、と、永愛は前向きに考えることにした。

 ただ、どこへ行っても何をしていても、妙な違和感がついて回る。夏休みが終わる少し前からずっとこの調子だ。

(これは現実。そのはずなのに、半分夢のような感じもする)

 その理由を、その日の放課後、永愛は知ることになった。


 帰宅した永愛は、自室に入るなりおまじないの本を何冊か手に取り、意味もなくページをパラパラめくった。

「あんなに大好きだったのに、最近全然興味なくなっちゃったなぁ……」

 エモリエルの命と引き換えに魔力を失った永愛は、おまじないへの興味関心もなくしてしまった。だが、とあるページから落ちた紙切れが記憶の欠片となって永愛の胸に衝撃を与えたのである。

 夏休み中、居留守を使った自分が母親を通して受け取ったエモリエルからのメモ。花火大会に誘う内容のそれが、音もなく永愛の足元に落ちた。おまじないの本に挟んだまま忘れていた。

「これって…!」

 差出人の名前。それを見て、自分がとんでもないことをしたような気持ちに襲われた。エモリエルの名前を見た瞬間から、動悸(どうき)がおさまらない。

「瑞穂君にも教えよう!」

 電話で呼び出すと、瑞穂はすぐ永愛の家に来た。永愛は彼に、エモリエルからのメモを渡した。

「最近おかしいなって思ってたの、このことだったんだよ。私達以外のもう一人って、このメモくれた人のことだったんじゃないかな?瑞穂君の力で、エモリエルって人のこと占ってほしい!どうしても知りたいの!」
「分かった」

 永愛の気迫に押され、瑞穂は小さくうなずいた。

 永愛の部屋で、二人はメモを間に置いて膝を寄せ合う。瑞穂はメモに片手をかざして目を閉じた。永愛も真似して、両目をかたくつむる。

 数秒後、疲れた表情で瑞穂は告げた。

「……エモリエルは、俺のソウルメイト。異世界人で、任務のために地球に来ていた。彼は俺達のクラスに転入し、永愛を監視する役目に就いた。今はもう、彼は生きていない」
「そんな……」