エモリエルに抱きしめられた体勢で床に転がった瑞穂は、わずかに震える両手をグッと握りしめ、永愛に叫んだ。

「永愛!正気に戻って!」
「瑞穂君、ここは一旦引きましょう」
「でも!このままじゃ永愛は…!」
「今の彼女はジョセフ司令官の操り人形です。何を言っても通じません。対策を立て直しましょう」

 言い終わる前に、エモリエルは瑞穂を抱え空間転移をした。一秒後、二人はエルガシアにあるエモリエルの自宅にいた。

 現状を受け入れられない瑞穂は取り乱した。

「どうして永愛はあんなことに……?ジョセフ司令官はエモリエルの親代わりだったんじゃないの?そんな人がどうしてあんな……」
「ジョセフ司令官は優しい人なのです。だからこそ一人で全てを抱え込み、あのように強引な手段に出たのでしょう」

 エモリエルには、ジョセフの気持ちが分かっていた。

「少し長い話になりますが、聞いていただけますか?」
「……分かったよ」
「私の両親は、昔、他の星の人間に連れ去られたきり行方不明になりました。両親は私とは比べ物にならないほど高い魔力の持ち主だったので、そのせいで狙われたのだと思います。言い方は悪いですが、魔力の高い人間はそうでない者より利用価値がありますから……」
「ひどいね……」
「私の父と親友だったジョセフ司令官は、その立場を利用して、密かに両親の行方を探してくれていました。私達宇宙を統括する組織の人間は、宇宙に点在する他の星を行き来出来る術を持ちます。もちろん、そのための許可を上からもらわなければいけませんが、最高責任者のジョセフ司令官には、それを自由に使用する権限がありましたから」

 しかし、ジョセフがどれだけ手を尽くしてもエモリエルの両親を見つけるには至らなかった。

 宇宙は広い。自由に他の星へ行き来が出来ると言っても、唯一の手段である空間転移には莫大な魔力を消耗するので、効率も悪かった。宇宙の隅々まで探すことを思うと、諦める他なかった。

「我々組織の人間は、永愛さんのように戯術を使う人間を最大の悪と見なしていました。おまじないは我々の星に様々な形で危害を加えるからです。でも、それは表向きの理由であって、戯術を阻止しなければならない本当の理由は他にあったのです」
「永愛がおまじないを使ってはいけない本当の理由?」
「戯術は、私の両親を探す際、それを妨害するノイズの源になるのです。特に永愛さんは強い魔力の持ち主ですから、彼女がおまじないを使うと、行く手を砂煙に阻まれたかのごとく他の星への空間転移がしづらくなるのです……」
「だから、ジョセフ司令官は永愛の記憶を封印しておまじないを使えなくさせたっていうの?」
「それだけではありません。おそらく……」

 永愛を殺してもいいと言っていたジョセフが、彼女の記憶を封印し生かしている理由。それは、彼女を味方にして、エモリエルの両親の行方を探させるため。

「永愛さんには、それを可能にする魔力があります。私も初めて彼女に出会った時は驚きました。組織から見ても、殺すのは惜しい人材だと、ジョセフ司令官は考えたのです」
「……もしそれでエモリエルの両親が見つかったとして、エモリエルは喜べるの?」
「そんなはずはありません」

 エモリエルは即答した。

「両親には会いたい。すでに亡くなっているのかもしれなくても、亡骸(なきがら)でもいいから確認したいです。でも、だからといって永愛さんの身を犠牲にするのは嫌です」