長いようで短い時間だった。

 空間転移をしている間、不安定な時空の狭間で、瑞穂は思った。

(昔から俺は、予知夢みたいなものをよく見てた。無意識のうちに少し先の未来を見た。この能力を人に知られたら不気味がられる。それが嫌で、一匹狼的な学校生活しか送れなかった。そうすることで自分と周囲を守ってたんだと思う。親の離婚を予知してもそれを止めることは出来なかった。こんな能力があったって誰も幸せにできないし、だったら必要ないと思ってたけど、永愛の力になれるのなら、やっぱり特殊能力の持ち主で良かったと思える…!)

 瑞穂の手をにぎっていたエモリエルは、彼の気持ちを察したように、ただただ黙っていた。


 しばらくして、二人はエルガシアに転移した。

「着きました。私の家です」
「本当に何もないんだね」

 生活感のない部屋を見渡し、瑞穂は寂しげにつぶやいた。

「日本のアパートの方が、家って感じがする」
「ええ、私もそう思います。さっそくですが研究所へ行きましょう。永愛さんのオーラが感じられます」
「うん。案内はお願い」

 外へ出ようとドアノブに手をかけた瑞穂に、エモリエルは苦笑した。

「ただ……。私達の知る永愛さんではなくなっているかもしれません。今の彼女のオーラは、彼女のものであって彼女ではない、そんな感じがするのです」
「……そう。なんとなく、覚悟はしとく」

 瑞穂の脳裏には、空間転移する前に自分が見た未来の映像が浮かんでいた。研究所のような場所で佇む、冷たい瞳をした永愛の姿がーー。



「彼らが来たようだ」

 ジョセフはつぶやき、ABU対策室本部の門を開けた。他の人員は退去させたので、ここにはジョセフ一人だった。広い建物の中、ひんやりした静けさが満ちている。

 例外として、ジョセフの元に残った人物が一人だけいた。永愛だ。

「ジョセフ司令官。私はここにいていいのですか?」
「もちろんだ。君こそが、彼らに会わせたい人物なのだからね」
「承知しました」

 無表情にうなずく永愛に、本来の彼女の面影はなかった。記憶を消されたのでそれも仕方ないことなのだが、その直後ここへやってきた瑞穂とエモリエルは、永愛の変わりように動揺した。

「永愛さん。瑞穂君の言った通り、あなたはここにいたのですね。さあ、帰りましょう」
「待ちなさい、エモリエル」

 ジョセフが永愛の前に立ち、エモリエルの接近を拒んだ。エモリエルは苦笑を浮かべジョセフを見た。

「どういうおつもりですか?ジョセフ司令官。人払いまでして私達を待っていたこともそうですが」
「エモリエル。お前は賢い。この状況を見て、すでに理解しているのだろう?」
「……」

 その通り、エモリエルはジョセフの思考を自分のもののように読み取っていた。それは、長年ジョセフと親子のような関係を続けてきたからだ。しかし、今のエモリエルは、それをただ悲しく思うのだった。