とはいえ、前世の記憶など、今のエモリエルには全くないし、その件にはそれほど興味がない。

(ソウルメイトと物理的な距離を縮めると、夢の中で前世の記憶を思い出す。文献にはそうあった。それなら私も、ソウルメイトと会えばきっと……)

 旅立つ準備をしながら、胸の高鳴りで両手が震えた。

(どんな人間なのだろう。私のソウルメイトは……)

 A区画は広いし、エルガシア以上に人口も多い。行ったとしても会えるかどうか分からない。

(そうだ。この時に備えてこれを作ったんだ)

 鍵付きの引き出しを開け、そこからある物を取り出した。

 懐中時計に見えるそれは、ソウルメイトの居場所を示してくれるアイテム。長年かけて完成させた、エモリエルの手製魔術道具だった。

 ソウルメイトを探していることは、誰も知らない。昔から目をかけてくれたジョセフですら、この懐中時計の存在を知らない。

 生まれながらに魔術を使う才能が高かったエモリエルは、両親を失った後も周囲に期待され続け、今の地位を築いた。

 14歳にして、ABU対策室最高司令官付きの幹部。そうそうなれるものではない。

(ジョセフ司令官には感謝している。本当の親のように可愛がってくれ、こうして住まいも与えてくれた。職にも就かせてくれた)

 エモリエルほどの能力があれば、どこへ行っても生きていける。それなのに、あえてABU対策室という過酷な場所で働いているのは、ジョセフに恩返しがしたいからだ。

 ジョセフは、エモリエルの父の親友だった。それだけでここまで良くしてくれたことを、本当に感謝している。

(だからこそ、ソウルメイトに会うことを、最初は諦めていたけど……)

 年々募る、会いたい気持ち。

(ジョセフ司令官の期待を裏切ってでも、俺は会いたい。彼にーー)


 ソウルメイト探索魔術で、相手の性別は分かっている。自分と同じ男。そして、年齢までもが同じということも。

(相手は私のことなど知らないし、ソウルメイトの存在すら、気付いていないかもしれないが……)










 …プロローグ…(終)