8月下旬。近頃雨天が多かったので花火大会も中止になるかもしれないと思われていたが、当日は朝から晴天で、花火大会に参加しようとしていた者は皆ホッとし喜んでいた。

 永愛だけが、雨の降ることを望んでいた。エモリエルに会いたくなかったから。

(都合良く天気を操れるわけないよね)

 友達と遊ぶ前にこんな暗い気持ちになってしまう自分が悲しかった。


 花火大会が始まる前、永愛は憂鬱な気分で待ち合わせの公園に着いた。指定された時間より早めに来たのに、エモリエルはすでにベンチに座って待っていた。

「永愛さん、お久しぶりですね。来てくれて嬉しいです」
「……昨日はごめんね。お母さんに聞いたよ。瑞穂君と一緒に家に来てくれたんだよね」
「気にしないでください。こちらの気まぐれですから」

 ためらうような間の後、エモリエルは永愛に憂いた視線を向けた。

「居留守を使いたくなるほどつらいことがあったのですか?」
「……!」
「人にはそれぞれオーラがあり、オーラには個々の個性や心を映す色が存在します。永愛さんの魔力は高いので、それが特に際立つのです」
「エモリエル君には分かってたんだね」

 魔術を極めたエモリエルは、永愛のオーラや気配を感じ取っていた。魔術師相手に、居留守は通用しない。

 しかし、その件に関してそれ以上掘り下げることもなく、エモリエルはいつもの穏やかな顔を永愛に向けた。

「さあ、行きましょう。歩きながら話を聞きます」

 エモリエルにうながされ、永愛は重たい足を動かし公園を出た。

(居留守も見抜くくらいだもん。私が勝手におまじないを使ったこと、エモリエル君は絶対気付いてる。いつ追及されるんだろう…?)

 気が気じゃない。こわばった永愛の表情とは裏腹に、周囲にいる通行人は楽しげな会話をしていた。普段は静かな通りなのに、浴衣姿の人々がたくさん歩いている。花火大会の影響だ。

 花火大会の会場に向かいながら、永愛は話した。

「瑞穂君には彼女がいたの……。この前たまたま見ちゃって」
「……そんなことがあったのですか。それで彼を訪ねるのをやめたのですね」
「知ってたんだ…!」
「瑞穂君もあなたのことを気にかけています。あなたが彼に会いに行ったことを伝えたら知らないと言っていました。勝手に話してしまってすみません」
「ううん……」

(瑞穂君、私のことどう思っただろう…?)

 どうすればいいか分からなくなり永愛がうつむくと、エモリエルは軽やかな口調で思いやるように言った。

「永愛さんは瑞穂君のことが好きなのですね」

 永愛は否定するため首を横に振ったが、その真っ赤な顔が肯定を示していた。