今回エモリエルがジョセフから指示を受けたのは、宇宙の中にあるA区画という領域の監視と、そこで戯術(ぎじゅつ)を使っている生命体にそれをやめさせることだ。

 A区画には、日本やアメリカ合衆国といった国があるということと、太陽と月が一つずつあることはすでに調査済み。

 地球と呼ばれる星で生きる生命体が頻繁に戯術を使っているせいで、その影響がここJ区画の自然界にまで及んでいる。

 はじめは大したことのない被害で済んでいたから良かったものの、その影響は近年激しさを増し、ケガ人も続出している。地盤沈下が進んだり、台風が頻発したり、炎の雨が降ったり、など。

 現在のJ区画は、とにかく暮らしにくい環境にある。特に、エモリエルの住む国・エルガシアはその被害が尋常ではなかった。

 環境破壊を理由に他国に移り住む者が続出し、残った民も不安に溺れ、国家存続の危機に直面している。

 ジョセフはこの事態を重く受け止め、こうしてエモリエルをA区画に派遣することにしたのだが、エモリエル本人は他区画の生命体が行った戯術による自国への影響を、さほど深刻に考えていなかった。

(A区画の生命体が戯術を使っているのは私が生まれる以前からの話だし、自分達組織の人間が全力を尽くして何とか出来るような件ではない。ジョセフ司令官は期待してくれているけど、私にはそれを何とかする力量などない)

 はじめから、ジョセフの期待に応えるなど無理だと、エモリエルは思っていた。それなのに、なぜ意気揚々とA区画への派遣に応じたのか。それは、別の目的が叶えられるからだ。

(やっと、ソウルメイトに会える……!)

 素直に上からの指示に従ったのは、そのため。

(このくらい、両親を失ったことに比べれば何でもない。無事に乗り切って見せる)


 幼い頃、B区画の生命体に両親を連れ去られて以来、孤独無縁だったエモリエルは、ずっと、ソウルメイトの存在に期待を寄せてきた。

 ソウルメイトとは、自分の魂の片割れを持って生きている別の人間のことである。

 人の魂は、通常ならひとりにつきひとつである。なので、本来ソウルメイトなど存在しない。輪廻転生を繰り返しながら、魂は器を変えて存在し続ける。

 輪廻転生の過程で、ひとつの魂が半分に割れてしまうことがある。そうなると、元々ひとりの人間に入るはずだった魂はふたつに分かれてしまうので、魂の行き先も二手に分かれる。

 エモリエルは、幼い頃から学んでいる魔術を使ってソウルメイトのーー自分の魂の片割れを持つ人間の居場所を突き止めていた。

(A区画。地球と呼ばれるその星に、私のソウルメイトが生きている)

 ソウルメイトは、前世の記憶を共有している。元はひとつの魂だったからそれも当然のことなのだが、ほとんどの人にとってソウルメイトなどいないに等しい現代、エモリエルにとって前世の記憶を共有できる相手というのは、いなくなった両親と同じくらい大きな存在に思えた。