瑞穂の優しさは友達としてのもの。分かっているけど、永愛は時々、彼の優しさを恋人みたいだと錯覚してしまうことがあった。特に、夏休みに入ってすぐの頃から。

(海堂君は優しくて、同い年なのにお兄ちゃんみたいなところがあって、一緒にいると安心する。エモリエル君もそう)

 毎日会ううちに打ち解けて、口では言いづらいこともメールでなら話せるようになった。

《ありがとう。実は、夏休みの宿題がたまってて……。海堂君は大丈夫?》
《夜と朝に少しずつやってる。渡辺さんの方は大丈夫??俺達誘いすぎたね。ごめん》
《ううん!違うの!だらけてる私が悪いから気にしないで》
《それでおまじない使おうとしたの?》
《うん……。ごめんなさい》

 それきりメールは途切れた。

(あんな相談して、嫌われたかな?どうしよう……。さすがに海堂君も愛想尽かすよね)

 自分が情けない。しょんぼりしていると、電話が鳴った。

「はいっ……!海堂君…?」
『明日、エモリエルんちに集合でいい?』
「それって、一人暮らししてるアパートに?」
『今、エモリエルに訊いたらいいって言ってた。夏休みの宿題、全部片付けよ』


 そんなことがあって、翌日、永愛は瑞穂に案内されてエモリエルの住む一人暮らしのアパートに来ていた。新築でオシャレな内装の建物だった。

「お邪魔します」
「いらっしゃいませ、永愛さん。今お茶を淹れますね」
「あ、ありがとう」

 よく考えたら、男の人の家に上がるのは初めてである。ドキドキしながら玄関を通ると、すっきり綺麗に整った部屋に通された。

(男の子の部屋って散らかってて汚いって勝手にイメージしてたけど、すごい片付いてるし私の部屋より綺麗!)

 つい、キョロキョロしてしまう。そんな永愛を見て、瑞穂は面白そうに笑った。

「もっと早くこうしてたら良かったね」
「ううん、海堂君が提案してくれて助かったよ。本当ありがとうっ!」
「もっと早くここに呼んでも良かったんだけど、渡辺さん女子だし、男の部屋来るの嫌がるかなと思って」

 瑞穂がそこまで気を遣ってくれていたなんて知らなかった。永愛は笑顔で、

「全然嫌じゃないよ。たしかに男の子の部屋って初めてだから緊張はするけど、友達の家だし!」
「それはそれで複雑な気分だけど……」
「……?」

 瑞穂のつぶやきは、油断すると聞き逃してしまうほど小さな声だった。その意味が、永愛にはよく分からなかった。

「海堂君…?」
「永愛さん、今日はわざわざ来ていただいてありがとうございます」
「こちらこそっ!助かるよっ」

 エモリエルが飲み物と菓子を持ってきたので、それ以上瑞穂の言葉の意味を聞くことはできなかった。