夏休みに入ってから、永愛は毎日のように瑞穂やエモリエルと遊んでいた。

 8月になってもしばらくそんな楽しい日が続いていたが、永愛は心の片隅で夏休みの宿題を気にしていた。

(エモリエル君と海堂君はいつ宿題してるんだろう?)

 昼前から彼らに会い、外で昼ご飯を食べ、適当に時間をつぶして、夕方に別れる。

 今年の夏休みはそんな過ごし方が当たり前になっているので、つい、勉強は後回しにしてしまう。夜にやればいいのだが、睡魔に負けて今に至る。

(こんなに遊んだ夏休みは初めてだなぁ……。楽しいけど、宿題は全然手付かずだし、これはまずいよね)

 用事で親戚の家に行く以外することがなかった今までの夏休みは、このくらいの頃にはすでに宿題をすませていた。勉強は好きでもなければ嫌いでもない。

「だからって、宿題を理由に遊べなくなるのも寂しいし……」

 そんなことを言っていたら、あっという間に夏休みも半分過ぎてしまっていた。

 時間の流れは同じはずなのに、学校がある時より休みの方が時間が経つのは早い。

 今まで宿題は「やらなくてはならないもの」だったのに、友達と遊ぶ楽しさを知ってしまった永愛にとってそれは「友達との時間を削ってまでやるべきものではないこと」に変わっていた。

(おまじないの力で宿題やる気にならないかな……)

 夜、部屋の中で、つい、おまじないの本を手にしそうになり、我慢した。

(だ、だめ!もう使わないって決めたんだから!)

 今まで、困ったことがあるとおまじないに頼って解決してきた。それが、クセとして強く残っている。そんな自分にため息が出た。

 机の上に放置したままになった宿題の山を見て頭を悩ませていると、瑞穂からメールが来た。

《もう寝た?》
《これから寝るよ》

 夏休みになってから、こうして毎日瑞穂からメールが届いた。何か話すわけでもなく、なにげないやり取りが数回続く。

(あのほづみうみ先生とこうやって連絡取り合う日が来るなんて、ちょっと前までは思ってもみなかったよ)

 エモリエルは携帯電話を持っていないので直接会う時にしかコミュニケーションが取れないが、瑞穂とはこうしてスマホでやり取りできる。

《俺ももうすぐ寝るよ。おまじない使ってないから禁断症状とか出てない?》
《ちょっと危なかったけど大丈夫!》

 ドキッとした。瑞穂は鋭い。宿題に困りおまじないに頼ろうとした気持ちを見透かされた気がした。メールはもちろん、一緒にいる時も彼はさりげなく気を遣ってくれるので、ますます申し訳なくなる。

《危なかったの!?何か困ったことあるなら言ってね》