瑞穂と永愛の間に生まれた柔らかい空気に気付き、エモリエルはこんなことを言った。

「ストロベリーは初恋の味だそうですね」
「っぶふぁっ…!!」

 永愛と瑞穂は、同時にソフトクリームを吹き出しそうになった。

「急に何の話!?」
「最近、日本のとある文献を読んだらそのように書かれていました。ストロベリーだけでなく、レモンも初恋の味になるそうです。さすがにレモン味のソフトクリームはありませんでしたが」
「いつの時代の恋愛小説?」

 あわててツッコミを入れる瑞穂に、エモリエルは穏やかな笑みを向けた。

「やはり、あなたは私のソウルメイトですね」
「全然話がつながってないよ」
「こちらの話です。続きを味わいましょう」
「ごめんね、渡辺さん。エモリエルが変なこと言って」
「ううん!」

 それから永愛はぎこちない様子でソフトクリームを食べた。

(初恋の味、か。秋良君とはこういうとこ来たことないから分からないな)

 あんなに大好きだった宗のことが、記憶から消えかけている。別れを告げられてからそんなに経っていないのに。

「なっちゃんと秋良君も、こうやって仲良くしてるのかな?夏休みだし……」

 無意識のうちに、独り言。

「渡辺さん、やっぱりまだあの二人のこと……」
「え?あ、ううん!違うの!」

 おおげさなくらい、永愛は両手を振った。

「自分でも不思議なんだけど、なっちゃん達のこと思い出しても今はつらくないよ」
「本当に……?」
「うん!毎日、海堂君とエモリエル君が誘ってくれるからだと思う」

 そう言い笑顔を見せた永愛を見て、瑞穂だけでなく、エモリエルの胸も高鳴った。故郷の組織にいた頃にも感じたことがない、こんな感情は初めてだった。

「ありがとう。こんなに楽しい夏休み、初めて」

 永愛は言い、心からの笑顔を見せた。

「俺も楽しいよ。今年の夏休みは」
「はい。こんなに楽しいのは生まれて初めてです」


 食べ終えると、永愛は席を立って、

「手だけ洗ってくるね。ソフトクリームちょっとこぼしちゃって……」

 フードコート内の隅に手を洗いに行った。その間、瑞穂とエモリエルはどちらかともなく視線を合わせる。

「それらしい演技で彼女の心を惹きつけようと考えていましたが、難しいかもしれません」
「…作戦を改めるって意味ではなさそうだね」
「はい。その通りです」