夏休みになると、永愛は毎日のようにエモリエルや瑞穂と会った。親しくなったばかりなのでここまでしょっちゅう会うことになるとは思っていなかったが、彼らは友好的に誘ってくれるので断る理由もなかった。

 ファーストフード店へ昼食を食べに行ったり、ゲームセンターで遊んだり、夕方の公園でブランコをこいだり、そんな、他愛ないことをしている。

 あれ以来、任務のことについてエモリエルに何か言われることはなかったが、永愛はおまじないを使わないという約束をしっかり守っていたし、瑞穂やエモリエルもそう信じてくれているようだった。

 しかし、エモリエルはまだ自分の故郷に帰りそうにない。その理由は他に任務があるからなのだと、永愛は思った。


 ショッピングモール内のフードコート。いつものように三人でソフトクリームを食べている時、永愛は尋ねた。

「ねえ、エモリエル君」
「はい、何でしょう?」
「こんなこと訊いていいのか分からないんだけど、私におまじないをやめさせること以外にも任務があるの?」
「……それは」

 常に平穏冷静なエモリエルも、さすがに動揺し、言葉につまった。まさか、永愛に本気の恋愛をさせるため地球に留まっているとは言えない。

「すみません。こんなことを言うのは大変心苦しいのですが、任務についてはお話できない決まりになっているのです。永愛さんにおまじないをやめさせる件についてはあなたも関係者なのでお話しましたが……。申し訳ありません」

 そんなもっともらしい言葉で、エモリエルは切り抜ける。

「そっか、そうだよね。分かったよ。私こそ変なこと訊いてごめんね」
「いえ。気にかけていただけてありがたいです」
「私で協力できることがあれば、何でも言ってね」
「はい。ありがとうございます」

 爽やかに笑うエモリエルに、瑞穂はジトッとした目を向けていた。

(エモリエルは、本当に渡辺さんを振り向かせるつもりなの?俺は賛成したわけじゃないんだけど)

 とはいえ、結局瑞穂も、表面上はエモリエルの作戦に従うしかなかった。

(ごめん、渡辺さん……)

 男子二人の複雑な気持ちを知ることのない永愛は、エモリエルの食べているソフトクリームをじっと見つめた。

「きなこ黒みつ味、おいしそう。私もそれにすればよかった」
「永愛さんはストロベリーでしたね。そちらもおいしそうですが、一口頂いてもいいですか?」
「えっ!?」

 驚く声。それは、永愛だけでなく瑞穂のものでもあった。

「エモリエル、それはちょっと…!」
「う、うん、なんか恥ずかしいよっ」

 瑞穂と永愛はそれぞれ赤くなって抵抗したが、その辺りのことに疎いエモリエルは、無邪気に自分のソフトクリームを永愛の口元に近付けた。