恋愛をすれば、ある程度現実的な思考力が養われ、永愛のおまじないに対する依存心もなくなる、というのが組織の考えであり、エモリエルもそれに納得していた。

 その作戦を瑞穂には前に伝えていたが、彼はその時難色を示した。

「恋愛って、計算してさせるものなの?そういう、人の気持ちを操るみたいなの、どうかと思う」
「私も同じ気持ちです。でも、あなたには理解していただきたい。瑞穂君」
「ソウルメイトだから…?」
「……」

 無言は肯定を意味していた。

 瑞穂にとっても、ソウルメイトであるエモリエルとの出会いは貴重な体験だった。

 瑞穂の両親は小学4年の時に離婚し、彼は母親に引き取られた。パステルで記事を掲載する仕事を引き受けたのも、家計の足しになればと考えてのことである。

 妹は父親の元に行くことになり、瑞穂とは別の所で暮らしている。かつては仲の良かった家族がバラバラになる悲しさは、言葉では言い表せないほど深いものだった。

「そんな時にエモリエルと出会えて、俺も嬉しかったよ。ソウルメイトなんて、架空の話だと思ってたから」
「私もですよ、瑞穂君。だから、君の反対を押し切ってまで組織の命令に従いたくはないのです、本当は」
「……そうだよね。分かってる。渡辺さんの身に危険が及ぶかもしれないのなら、任務を果たすしかないんだよね」
「あくまで自然に、彼女に恋をさせればいいのです」

 こう話していた当時、永愛はまだ秋良宗と交際していたので、急いでわざと恋愛させる必要がなかった。

 しかし今は違う。彼女は失恋してしまった。

 昼間ファミレスで永愛に話せなかった、二人の考え。彼女にそれとなく男性を近付けて、恋仲にさせる。

「……言えるわけない。そんなことできない。エモリエルの力にはなりたいけど、俺はもう渡辺さんのこと大切な友達って思ってる。だから、そんな騙すようなことは……」

 瑞穂は葛藤していた。

 エモリエルには協力したいし、永愛にも危険な目にあってほしくない。でも、計画的に彼女に恋をさせる作戦だなんて、友達としてどうかと思ったのだ。

 彼女の幸せを願ってのことならともかく、自分達の事情のために作戦を実行するなんて、永愛への裏切り行為としか思えない。

「大丈夫ですよ、瑞穂君」
「……他に策があるの?」
「私が彼女を口説きます」
「……え?」

 エモリエルの言葉を理解するのに数秒かかった。

「エモリエル、自分が何言ってるか分かってる?」

 エモリエルの両腕を揺り動かし、瑞穂は大反対した。

「エモリエルにその気はないのに?渡辺さんが本気にしたらどうするの?秋良の件でつらい思いしたのに、彼女のことをまた傷付けるつもり?」
「永愛さんのためです。その結果嫌われてもかまいません」
「そんなの強がりでしょ……。エモリエルだって渡辺さんのこと大切な友達だと思ってるクセに」
「私はいずれここを去る人間です。それに、これは私の持ち込んだ任務。汚れ役は厭(いと)いません」

 エモリエルの決心は揺るがなかった。









…4 ソウルメイト…(終)