永愛は思った。

 学校にいたら、また同じようなことが起きるかもしれない。自分には二度と女の子の友達なんてできそうにない。できたとしても、心から信用できないかもしれない。

 自分が変わらない限り、エモリエルや瑞穂も同じように離れていくかもしれない。彼らとはそんな風にならないと信じたいが、仲良くしたら、好きになったら、その分別れがつらくなる。

 ひたすらこわかった。自分が。周りが。見えない未来が。

 言葉にすると、涙があふれて止まらなかった。永愛が話し終わると、瑞穂は独り言のようにこんなことを口にした。

「名前に由来があるのうらやましいよ。俺の名前なんて、語感がいいってだけで親がつけたらしいし」
「……そうだったの?」
「渡辺さんは親に愛されてる。それだけで充分価値のあることだよ」

 この時の瑞穂は、永愛を励ますような口調の反面、どこか寂しそうだった。

「渡辺さんと逆で、俺はずっと友達を作らないようにしてた。内緒でこんな仕事してるし、人に知られてアレコレ突っ込まれるのも嫌だったから。友達なんていてもいなくても変わらない存在だって思ってたし、一人は気楽。好きなこと思う存分にできるから。でも……」

 うつむく永愛を見つめ、瑞穂は言葉を継いだ。

「エモリエルや渡辺さんと出会って、話すようになって、考え方が変わってきた。この人達ともっと仲良くなりたいって思った。こういう気持ちが友情なのかなって、今は分かる」
「……」
「ファンレター、ありがとう」
「……!」

 勢い良く顔を上げ、永愛は瑞穂を見つめる。瑞穂は優しい笑みを彼女に見せた。

「本名で送ってくれてたでしょ?四年前からずっと。だから、初めて話す前から、渡辺さんのこと知ってた」
「知ってたんだ……」
「同姓同名かもしれないとも思ったけど、コボルトのメダルキーホルダー落としたところ見て、この人が手紙の人なんだって確信した。渡辺さんと同じクラスになって、この人が俺のファンならいいのにって思ってた」
「……でも、私、嫌われ者だよ。目立たないし暗いってよく言われる」

 弱気につぶやく永愛に、瑞穂は微笑した。

「皆、見る目ないね。渡辺さんって素直で明るい人なのに」
「……いい風に言い過ぎだよ。私なんて全然」
「それ、やめない?『私なんか』って口グセ」
「え?」
「こっちまでヘコむから」
「ごっ、ごめんなさい……」

 縮こまる永愛に、瑞穂は困ったように笑いかける。

「俺こそごめん。仕事以外で人と関わる機会少ないから、配慮ない言い方になる時ある」
「そんな、海堂君は悪いとこなんてないよ。私こそどうしていいか分からなくて……」
「俺も、渡辺さんの涙見た時どうしたらいいか分からなかった」

 目を合わせ、どちらかともなく吹き出した。

「よかった。渡辺さんが笑ってくれて」
「ほんとだ…!いつの間にか涙とまってる!」
「あははっ!」
「ふふっ」

 ついさっきまで真っ暗な気持ちだったのがウソのように、永愛の気持ちは明るく晴れ渡っていた。重かった心も軽くなっている。

 いつもは暑苦しいだけの夏の太陽も、今の二人にとっては楽しい気分を後押ししてくれるものに感じた。