宗は宗で、必死だった。

(地味子のクセに完璧な僕を振るなんて許さない。身の程を思い知れ…!)

 どこにそんな力があるのだろう?優しい優等生の面影は、もうそこにはない。

(秋良君、いつもとは別人みたい……)

 身動きが取れず、永愛は絶望的な気持ちになった。このまま宗に唇を奪われてしまうなんて……。

 二人の唇が触れそうになる寸前、宗の体が勢いよく床に転がり、永愛の両手は軽くなった。

「渡辺さん嫌がってるけど?」

 宗の体を力づくで永愛から引き離したのは瑞穂だった。その後ろからエモリエルが現れる。

「お二人の様子が気になり、失礼ながら一部始終見ていました」
「海堂君!エモリエル君!」

 二人の姿を見て、永愛はホッとした。

 宗はため息をつき、瑞穂を見た。

「海堂君、また君か……。君達には関係ないでしょ。邪魔しないでほしいな」
「彼女は私達の友達です。困っているのを見過ごすなんてできません」

 床に落ちた永愛のカバンを拾い彼女に渡すと、エモリエルはその背に永愛を隠して言った。

「彼女は明らかに嫌がっていました」
「…友達とか言って、君達も永愛ちゃんのことが好きなんじゃないの?」
「はい、好きです。何か問題ありますか?」
「なっ!」

 ストレートで冷静なエモリエルの返しに、宗をはじめ、瑞穂と永愛は驚いて目を丸くした。

「エ、エモリエル君っ?そんなこと言ったら誤解されちゃうよ??」
「かまいません。あなたを守れるのなら」

 凛々しい表情で振り向くエモリエルに、永愛の胸は激しく音を立てた。頬も熱くなる。

「男女のことについて、私はそれほど詳しいわけではありませんが……。あなたは彼女との関わり方を改める必要があると思います。それでは、今日のところはこれで失礼します。行きましょう、永愛さん」
「う、うん……」

 エモリエルにされるがまま、永愛は手を引かれて学校を出た。瑞穂もそれについていく。

 校門を出てようやく、エモリエルは永愛の手を離した。

「大丈夫でしたか?永愛さん」
「う、うん!助けてくれてありがとう」