「でも」と、永愛は意見を言った。

「今日こうやって海堂君やエモリエル君と話せて、少しだけ自信が持てた気がするの」

 永愛は、制服のスカートのポケットにしのばせたコボルトのメダルキーホルダーを片手でにぎった。二人と話せるようになったのは、このおまじないグッズのおかげ。

 これがあれば、クラスメイトの女子とも和解できると思えた。

「だから、あの子達にも、私の思ったこと言ってみる。今まではこわくて言えなかったけど……」

 エモリエルや瑞穂と話せるようになった今なら、きっと他の女子とも話ができる。そして問題は解決できる。

「渡辺さんがそう言うならいいけど……。あんまり無理はしないでね。関わる相手全てが話の通じる人だとは限らないから」
「ありがとう。海堂君」

 話がまとまった時、エモリエルが永愛に提案をした。

「もしよろしければ、放課後は私達と一緒に帰りませんか?さきほどの話の続きもしたいですし」
「はい、ぜひ!」
「あ、私にも敬語は必要ないですよ。同い年ですし」
「あ、それじゃあ……。でも、エモリエル君は敬語だよね?」
「私の言葉遣いはどうかお気になさらず。今は任務中なので」
「任務…?」

 やっぱり、エモリエルの話すことは時々分からない。永愛が首をかしげると、瑞穂は顔をしかめた。

「……やっぱり、エモリエルは渡辺さんに会うためここへ来たんだ……。人違いであってほしかった」
「海堂君…?」


 永愛が彼らの言葉の意味を知ったのは、放課後だった。

 一緒に帰る約束をしていたので、永愛は、奈津や秋良宗の誘いを断り、昇降口でエモリエルと瑞穂を待っていた。

 永愛の評判を気にした瑞穂が、彼女との待ち合わせ時間をわざと遅くした。おかげで、部活の生徒以外みんな下校してしまい、昇降口は静まりかえっている。


 永愛に下校の誘いを断られた秋良宗は、彼女の様子をロッカーの影から見ていた。部活に行くフリをし、先に教室を出ていたのだ。

(永愛ちゃんは今まで僕の誘いは全て受けていたのに、どうして今日は断ったんだ…?)

 しばらくすると、永愛の元にエモリエルと瑞穂がやってきた。

「待たせてごめん」
「それでは行きましょうか」

 男子生徒二人に挟まれる形で、永愛は学校を後にした。

 彼女の後ろ姿を、秋良宗はただならない表情で見ていた。

(あれはB組の海堂君と、イギリスから来たってウワサの転校生!?)

 B組に転入してきたエモリエルのウワサは、A組の秋良宗の耳にも届いていた。

 海堂瑞穂とエモリエル。どちらも、女子に人気のある男子。そんな彼らと下校する永愛を見て、秋良宗は自分を見下されたような感覚に陥(おちい)っていた。

(どうして僕がこんなみじめな思いをしなくちゃならない!?永愛ちゃんとは同情で付き合ってただけだってのに…!)