次はしっかり目を合わせ、瑞穂は言った。

「良かった。俺、渡辺さんに嫌われてるんだとばかり思ってたから」
「そっ、そう思いますよね?本当にすいませんでしたっ」
「敬語戻ってるよ」
「は、はいっ!」
「あはは!渡辺さんって面白いね」

 屈託なく笑う瑞穂に、永愛はホッと胸をなでおろし、同時に、彼に対する印象がガラリと変わるのを感じた。

(海堂君ってクールで近寄りがたい人かと思ってたけど、ちゃんと話してみたら全然そんなことない。皆のウワサを聞いて勝手にこわいイメージ作っちゃってた……)

 海堂瑞穂への先入観が消え、緊張感も薄れてきた。同時に、封印していた本来の自分が顔を出す。永愛は、友達の奈津に接する時のように、気楽な気分で瑞穂に話しかけた。

「私をかばってくれたせいで教室に居づらくさせて、ごめんね」
「……気にしなくていいよ。かばったとかそういうつもりないし」

 瑞穂は永愛から顔をそむけ、校舎への出入口に向かってゆっくり歩いていく。授業に出る気になったらしい。

「……ああいうのに関わるのめんどくさいし、最初はスルーするつもりだったけど。渡辺さんばかり好き放題言われっぱなしでいるのは、何か嫌だったから」

 瑞穂の言葉は、クラスメイトとしての親切心からくるもの。それは分かっていたけど、異性の優しい言葉に慣れていない永愛は、必要以上にドキドキしてしまった。

(海堂君みたいにクールでかっこいい人がそういうこと言うと、変にドキドキしちゃうよ……)

「良かったです。瑞穂君が授業に出てくれる気になって。あなたのおかげですね。永愛さん」

 エモリエルにまで微笑まれ、永愛は反応に困った。

(こんなとこなっちゃんに見られたら、また浮気者って言われるかも……。二人とも他の男子と違って優しいし大人だから、私も自分らしくいられるんだよね。不思議だなぁ)


 教室に戻るまでの廊下。永愛を中心に、エモリエルと瑞穂は彼女を挟むように歩いた。

「でも、なんで渡辺さんまで連れてくるわけ?エモリエル一人で来ればよかったのに、これじゃまた渡辺さんクラスの人達に変なこと言われるんじゃない?」
「すみません、そこまで考えが行き届きませんでした。あの時はどうしても永愛さんを連れて行くのが得策だと思いまして」
「ったく。転校初日だから仕方ないけど、エモリエルは今後教室で渡辺さんに話しかけない方がいい」
「それはそれは……」

 寂しげに眉を下げるエモリエルに、永愛は言った。

「海堂君、心配してくれてありがとう!でも、私は大丈夫」

 せっかく話せるようになったクラスメイトとこれきり会話もできないなんて、やっぱり寂しい。エモリエルも永愛も、そこは同じ気持ちだった。

 しかし、瑞穂は永愛の心配をした。

「でも、あの女子、秋良のことで渡辺さんを目の敵にしてるみたいだし、これ以上こうやって男子と絡んだらあることないこと言われるよ?いつも俺がかばってあげられるとも限らないし、ただでさえエモリエルは目立ちまくってるし……」
「そうかもしれない。エモリエル君や海堂君と話してたら、また何か言われると思う」