エモリエルに手を引かれ、永愛(とわ)は屋上に向かっていた。

(手なんて、秋良君とだってまだつないだことないのに…!)

 初めて触れる異性の手にドギマギしつつも拒否する勇気がなく、されるがまま、屋上の出入口までたどり着いた。

「強引なマネをしてすみませんでした」

 エモリエルが手を離すと、永愛はぎこちなくうつむいた。

「あなたは大変奥ゆかしい方なのですね」

 思いもよらぬことを言われ、永愛はとっさに口を開いた。

「そんなことはっ……。人見知りなだけで……」
「初めて話してくれましたね」

 安心したように微笑するエモリエルに、永愛はドキッとしてしまった。こんな笑顔は、彼氏の秋良宗にすら向けてもらったことがない。

(エモリエル君って、本当に私と同じ年なの?見た目もそうだけど、話し方とか、すごく大人っぽい……)

 感動しつつ内心疑問に感じていると、屋上に続く出入口の扉に手をかけたまま、エモリエルが言った。

「人見知りという性質はそれを持つ本人を守る防具になるのだ、と、昔父に教わりました。永愛さんも何らかの事情からそのような態度を貫いているのだとお見受けします。だからというわけではありませんが、あなたには話しておきたいことがあります。
 瑞穂君と私はイトコではありません。色々都合がいいので学校側にはそう話していますが、本当は全くの他人なのです」
「は、はい……」

 言われるまでもなく、永愛は納得する。なぜ改まってそんな話をされるのか疑問に思った。

(ちょっと変わった人かもしれないけど、エモリエル君って話しやすい人だな。今まで出会った子達とは違う)

「私は瑞穂君の自宅のそばで一人暮らしをしています。訳あってこの世界へやってきたのですが……。続きは後でゆっくり話しますね」

(「ここへやってきた」って、え!?エモリエル君、何を言ってるの?……「ちょっと」じゃなくて、「相当」変わってる…?)

 話についていけない永愛を視線でうながし、エモリエルは屋上への扉を開いた。フェンス脇のベンチに、海堂瑞穂はだるそうに座っていた。

「瑞穂君、お気持ちは分かりますがそろそろ教室へ戻りましょう。1時間目の授業が始まってしまいます」
「そんな気分じゃない。サボる」
「困りましたね」

 エモリエルの説得に応じない海堂瑞穂に、永愛は思い切って話しかけた。

「あの、さっきはありがとうございましたっ…!女子達からかばってくれて」

 今度はちゃんと言えた!エモリエルがそばにいてくれるおかげかもしれない。永愛は、勢いのまま言葉を続けた。

「この前も、キーホルダー拾ってくれて助かりました。なのにお礼も言えなくてごめんなさい。重ね重ね本当にありがとうございましたっ…!」
「タメなんだから敬語じゃなくていいよ」
「えっ?」

 瑞穂からそんな言葉が返ってくるとは思わず、永愛は思わず聞き返してしまう。