パチンと器用にウインクを残してなしのん兄はカフェを出て行った。
なんか、最初なしのん兄に会ったときは礼儀正しい人だとか思ってたけど最終的によく分からない人になってしまった。いや、基本的には紳士なんだろうけど、最後のあれは悪戯好きっぽいし紳士と言っていいのかどうか……
ぼーっとそんなことを考えているといつの間にか近くに来ていた桃に腕を掴まれて立たされる。それがやけに強引な気がした。
「桃?」
「行くよ」
答えた声も不機嫌さを漂わせていたので、逆らうのは得策ではないとあたしは桃に連れられるがままに歩いた。
無言のままどこに行くのだろうかと少し怖さを感じていたものの、着いた先は桃の家でなんとなくホッとする。
や、だって桃ったら稀に見る不機嫌さだったから不安にもなるって。このまま地獄にでも連れて行かれるんじゃないかと思った。マジで。
やっぱり黙(だんま)りを決め込む桃のあとを若干びくつきながらついていく。というかおばさんもおじさんもいないんじゃなかったっけ。
夜ごはんの時間も近いしあたしはともかく桃はあたしの家に行った方がいいんじゃないか。夜ごはん食いっぱぐれるぞ。
そのことを言うべきか言わざるべきかと悩むうちに家の中に連れ込まれ、ガチャリと玄関の鍵を閉められた。


