それから彼女はしばらく黙ったまま景色を眺めていた。
僕は何か話そうと努力した。
でも僕の頭の中は、さっき彼女が言った「もし、私が田舎に帰ったら…」という言葉でいっぱいだった。
次の言葉はいくら探しても見つかることがなかった。
『あ、あのさ……』
とりあえず声にしたのはそんな意味のない言葉だった。
もちろん続きはない。
『あの……き、喫茶店のバイトって楽しい?』
さらに意味のない言葉を重ねた。
本当に聞きたかったのはそんなことではなかった。
でも僕は、彼女の「もし……」の答えが怖かった。
千鶴は景色を眺めたまま、少し首をかしげた。
「うん、おばさんも慣れたら面白いこと言うし、美貴も居るしね」
そう言って彼女は振り向いて、僕に「そうでしょ?」と目で訊いてきた。
僕は、ああ……と頷いてから、不器用な笑顔を見せた。
『学校は?どうして辞めたの?』
「何で知ってるの!?」
『いや、美貴さんにチラッとそんなこと聞いたからさ』
ふぅん、と彼女は納得のいかない様な表情で納得をした。
「まだ辞めたわけじゃないの、7月くらいから行ってないだけ……今は夏休みだし」
『そうなんだ』
「フリーターのフリしないと、あそこのバイト雇ってくれなかったから……」
『どうしてあの喫茶店を?バイトなら他にもあるじゃん』
少しの空白を置いて彼女は答えた。
「……近かったから。私、免許も何もないから」
なるほど、と僕は納得をした。
「どっちにしても学校はもう辞めるつもり……」
彼女の言葉を最後まで聞き取ることが出来なかった。
『え?なんて?』
「ううん、なんでもない。」
少し気になったが気にしないようにした。

