虹色のラブレター



『このまま港まで行くよ?』


「うん!でも……時間大丈夫なの?」


その時、すでに時間は午前1時を回っていた。


『大丈夫!今日は朝までいくよ!?』


「オール!?」


千鶴が笑った。


『そう!オール!!』


僕も笑った。




この時の僕の頭の中には、昨日のことも明日のことも、更にはその先の未来も何も無かった。

ただ千鶴と一緒に過ごしている、今この瞬間が全てだった。




*




高速道路を1時間くらい走って、僕たちは地元からかなり離れた、お洒落な港の突堤に着いた。

日中に来ると、そこは観光客やショッピングで賑わう名所でもあった。

突堤から突き出た大きな高級ホテルがそこにはあり、観光客船が停まるスペースを挟んで向かいにはお洒落な店が幾つも並ぶ木造3階建ての大きな建物があった。


車を降りた僕たちは、ありとあらゆる電気、外灯の消えたその建物の中に入った。

店は当然閉まっているが、建物の中にはいつでも入ることが出来た。

人の気配は全くなく、静けさが広がる建物の中で二人の足音だけが、木の床のきしむ音と共に響いた。


『ここには来たことある?』


「ううん、初めて……」


千鶴は上を見たり、閉まっている店の中をガラス越しに覗き込んだり、忙しなくキョロキョロしながら、首を360度回していた。


「誰も居ないね……なんだか悪い事してるみたいで楽しい」


千鶴のその反応は意外だった。

どちらかというと、真夜中の誰も居ない真っ暗な木造の建物の中は不気味だった。


『この建物の向こう側に観光客船の乗り場があるんだ』


「そこに行くの?」


僕たちは建物を抜けた。


『……ほら、見て?綺麗だろ?』


建物を抜けた僕たちの目に映ったのは、向かいの突堤に建てられた高級ホテルの幾つもの青白い光が水面に反射した海、静かに停まっている大きな観光客船だった。

見渡すとそこからは、港全体の夜景が、赤や青の無数の光を散りばめているのが見えた。