真夜中の高速道路は静かで車もまばらだった。
海の景色が一望できる湾岸高速を選んだ僕は、窓を全開に開けて、アクセルを踏み込んだ。
車が風を切る音がやけに騒がしかった。
吹き込む潮風に髪をなびかせながら、彼女はその景色を見て感嘆の声を上げた。
「わぁ……気持ちいい……」
『だろ?嫌なこととかあったらよくこうやって思いっきり走って窓から大声を出すんだ』
「え?例えばどんな風に?」
僕はハンドルに左手を置いたまま窓から顔を出した。
100km/h以上のスピードで顔に受ける風は痛いくらいだった。
僕はそこで大声を張り上げた。
『バカヤロー!!もっと休みくれーっ!!』
「あはははっそれが智の嫌なこと?」
千鶴が思いっきり笑った。
その笑顔を見て、僕の胸の中の心臓がノリノリのクラブでダンスを踊っているかのような鼓動を上げた。
『そうだけど……何?ちっぽけだと思った?』
「そうじゃないけど。でもそんな窓から大声出すようなことかな」
『俺にとっては大問題なの!じゃ、千鶴は?』
「本当のこと言っていい?」
『もちろん!大声で言っちゃえ!』
彼女は「うん」と決心したように頷いてから、体勢を変えて窓から顔を出した。
彼女の髪がさらに勢いよくなびいていた。
しばらくその潮風を受けながら、彼女は黙ったままだった。
彼女はためらっているようだった。
おそらくそれは僕のために。
「ナ……ナオキの馬鹿ぁ!!」
彼女が叫んだその言葉は、勢いよく吹き抜ける潮風に流されることなく、僕の胸に深く突き刺さった。

