それでね、と彼女は続けた。
「帰るの怖いんだ……今日も何してるかわかんないし」
それは彼女が、その彼と一緒に暮らしていることを裏付ける言葉だった。
『そう……なんだ』
普通に答えるには相当な努力が必要だった。
彼女に気付かれないように僕は必死でその演技をした。
『今日……これからどうするの?』
彼女は地面に視線を落とし、そこに何かがあるかのようにジッと一点を見つめていた。
『帰らなくてもいいよ』
それは僕の千鶴の彼に対する精一杯の強がりだった。
『朝まで付き合うから……』
「いいよ、そんなことしなくても」
彼女は顔を上げ、僕と一度目を合わせてから夜空を見上げた。
「明日も朝から仕事でしょ?」
『そうだけど……』
「いいから……帰んなよ」
『帰らないよ』
迷わずに僕はそう言った。
彼女の動きが止まり、やがて二人の間に沈黙が降りてきた。
彼女は視線を夜空から僕の方に移した。
彼女と目が合った。
僕はそんな彼女から目を逸らさずに彼女の目を見た。
千鶴も僕から目を逸らさなかった。
『……友達だから』
しばらく見つめ合ったまま僕が言うと、彼女は目を逸らしてもう一度夜空を見上げた。
ああ、と溜息混じりのような声を出した。
「星……綺麗だね」
そう言って千鶴は、一度瞼を閉じたくらいの長い瞬きをした。

