『その……彼が来るまでここに居るよ』
彼女は少し驚いて、すぐに首を3回横に振った。
「どうして?」
少しの空白を置いて僕は答えた。
『……友達だから』
彼女は視線を地面に落とし、「フー」と溜め息の様なものを一つついて、足下の石段に膝を抱えて座り込んだ。
「彼氏なんて来ないよ……」
ほとんど囁くような声だった。
僕はさらに彼女に近づき、彼女の隣で同じように膝を抱えて座った。
『ケンカでもしてるの?』
「ううん、そんなのじゃないんだけど……」
『じゃ、どうしてそんな……』
「いいよ、あなたには関係のない話でしょ?」
『そんなことないよ』
「どうして?」
『だから……友達だから』
「友達……」
『うん』
千鶴は何も言わずにじっと僕の目を見た。
少しの沈黙の後、彼女は表情を変えて話し出した。
「ちょっと前から、暴力がひどいの……叩いたり、物を投げたり……もう耐えられなくって」
それを聞いた時、彼女が眼帯をしていたことや、今も彼女が怯えたような悲しそうな目をしていること、その全てのクエスチョンの答えがそこにあるとわかった。
「田舎にいた時はそんなことなかったのに……最近は薬にも手を出し始めてるし……」
『薬?』
「そう、マリファナ……」
ああ、と僕は頷いた。
聞いたことはあった。
たいした薬ではないが、依存症になると辞められないらしい。

