美貴の姿はすぐに見えなくなった。
僕はそれを確認してから、すぐに車を発進させた。
車は来た道を逆走していた。
そのスピードは今日一番の速さだった。
僕はハンドルを掌の汗と一緒にギュっと握りしめ、アクセルをさらに踏み込んだ。
千鶴がまだそこに居るような気がした。
彼女の背中がまだ僕の影を待っているような気がした。
でも、もし、そこに千鶴の姿がなくてもよかった。
ただ、もう後悔だけはしたくなかった。
それだけだった。
やがて、車はボーリング場の横に停まった。
遅れて点いたハザードのオレンジ色の点滅が辺りを照らしていた。
僕はゆっくりと車から降りた。
『天野さん…』
振り返った彼女の表情はなにかを堪えているようだった。
そして怯えているようにも見えた。
「どうして?……ここに?」
彼女は壁に体を預けていた。
それは群れからはぐれた小動物の様に行き場を無くし、自分が次にどこに行くべきなのかもわからずに、そこで途方に暮れているように見えた。
僕はそんな千鶴にゆっくりと近づいていった。
ハザードの点滅に照らされる彼女の表情は、その点滅に合わせるように明るくなっていった。
「何してるの?」
千鶴が言った。
『……わからない』僕は答えた。
「わからないのにここに居るの?」
『うん、ただ気になったんだ』
「私のことが?」
『他に誰が居るんだよ』
「変な人……」
『そうかな?』
「そうよ」
『そうでもないよ。じゃ、天野さんは?』
「彼氏待ち……」
そう言って彼女は僕の表情を伺うような仕草を見せた。
僕は言葉を返せなかった。
そんな僕の表情を確かめてから彼女は続けた。
「……って言ったら?」

