車がボーリング場に着いた時、周りは待ち合わせた時と同じ場所とは思えないくらい静まり返っていた。
すでにボーリング場の入口もシャッターが下りていて、駐車場の外灯も消えていた。
僕は車のハザードを点けて路上に車を停めた。
眠ったままの美貴を車に残して僕たちは外に出た。
車のドアを閉める音が響き渡るくらいそこは静かだった。
『じゃ……貴久、また明日職場でな』
僕が右手を軽く上げると彼も「おう」と言って同じように右手を上げた。
『天野さんも気をつけて』
ハザードのオレンジ色の点滅に照らされた彼女の顔を見て、今日初めて彼女と目が合った。
僕の胸の中でドンッという低い音が響いた。
普段ならすぐに目を逸らすところだが、その時はできなかった。
千鶴のその目は僕に何かを訴えているように見えた。
『え?』
彼女は何も言ってなかったが、僕はその目に訊いた。
「ううん……」
彼女は小さく首を横に振ってから、僕たちと同じように右手を上げた。
「じゃ、今日はありがとうございました!また、喫茶店でね!」
笑顔でそう言って、僕たちに背中を向けた瞬間の彼女の表情は、やっぱりどことなく沈んでいて悲しそうにも見えた。
千鶴はそこから振り返ることなく歩き出した。
彼女の家がそっちの方だったのかはわからない。
でもその時の千鶴の後姿は、あの路地で会った日の後姿と重なって見えた。
僕が追いかけることのできなかったあの後姿……。
ーーーねぇ?
君はどこに行こうとしているの?

