帰りの車の席は、来た時と違っていた。

酔っていた美貴が助手席に座り、代わりに貴久が後ろで千鶴と座った。

貴久が上手く話が出来たのか気になったが、そのことを彼に聞くチャンスはなかった。


車内は静かだった。

美貴は助手席でぐったりしているし、千鶴は窓からじっと流れる景色を眺めていた。

貴久もそんな状態で動くことができずにいるようだった。

しばらくカーステからの音楽だけが車内に流れていた。


『天野さん、好きな音楽は?』


僕はなんとかこの雰囲気をよくしようと握ったハンドルに力を入れて懸命に声を出した。

それは僕にとってもかなりの勇気が必要な言葉だった。

なにしろこの日、僕は千鶴と一度も話をしてなかったし、目すらも合わせてなかったのだから。

貴久に気を遣って……とかいうのではなくて、それは僕自身が出来なかったことだった。


千鶴は視線を僕の方に移して答えた。

もちろん目が合ったとかいうのではなく、彼女の視線を後ろから感じた。


「う~ん……B`zとか……」


『B`zか~、りょ~かい♪』


僕はカーステをB`zのアルバムに変えた。


『帰りは?どうするの?みんな家の近くまで送ろうか?』


「私はボーリング場で降ろしてくれたら……家その近くなんだ」千鶴が言った。


「じゃ、俺もそこでいいよ。後は電車で帰るから」


貴久は少しでも千鶴と話がしたかったのか、車が動き出してからそこで初めて声を出した。


『美貴さんは?』


彼女はすでに眠っているらしく全く反応がなかった。


「美貴はいつもバスで来てるから……」


『じゃ、俺は美貴さんを送って行くよ。家の近くまでは行ったことがあるから』


「じゃ、それで決まりだな」


そう言ったのは貴久だけだった。