ゆっくりと近付いて来た彼女は案の定、僕たちのテーブルの横で立ち止まった。


「お待たせしました。アイスコーヒー……えっと、アメリカン二つです」


慣れないながらも彼女は丁寧にグラスとシロップ、それにミルクをそれぞれ二つずつテーブルの上に並べ始めた。

貴久が僕に目で「早く早く」と促す。

僕は彼女がコーヒーを並び終えたタイミングを見計らって声を掛けた。




『あの……新しいバイト?』


「は、はい……」


僕はその時初めて彼女と目が合った。

確かに貴久が言う通り、テレビで見たことのあるどこかのアイドルのように可愛らしくて、純粋で素直に見えた。




『な、名前……なんていうの?』


「え?……い、いや、そんなんじゃないんで……」




彼女は僕からすぐに目を逸らして、その一言だけ言って後、さっさと厨房の方に戻って行った。


『残念!!教えてくれなかったな』


僕が知りたかったわけではないが、実際、声を掛けて教えてもらえなかったのは僕だったから、それはそれで少しショックだった。


「あ~あ……最初っからこれじゃ……無理かな」


『まぁ、そんなに落ち込むなって!!僕ら毎日ここに来てるんだから……そのうち慣れたら教えてくれるって!!』


それは自分自身に対する慰めの言葉でもあった。


「そっかなぁ……自信なくなってきたよ……」


『まぁまぁ……じゃ、トイレ行ってくるから』


僕はそう言って立ち上がった。