しばらく僕たちは抱きしめあっていた。
ようやく彼女の息が整いだした時、眩しい車のヘッドライトが目に飛び込んできた。
それが合図かのように僕たちは離れた。
少し気まずさがあり、僕たちはお互いに目を合わせることができなかった。
僕の車と並ぶかのように停まったその車から、若いカップルが何やら楽しそうに降りてきた。
おそらく夜景を見に来たのだろう。
二人は仲良さそうに手を繋いで、僕たちから少し離れたところから市内の景色を眺めていた。
美貴は一度そのカップルの方に目をやり、すぐに戻したが、またすぐそのカップルの方に視線を移した。
「あっ」
何かを見つけたように彼女は声を出した。
「おいで」
見るとそこには一匹の白い小さな犬が、少し警戒しながら、手を差し出している美貴の方に近寄ってきていた。
「野良犬かな?」
そう言って彼女はしゃがんで手を差し出した。
『あ、でもちゃんと首輪してるよ?』
「ほんとだ……じゃ、あのお店の犬なのかな?おいで」
彼女が悪い人ではないことは、本能的に犬でもわかるのだろうか。
初めは警戒していた犬も、彼女に素直に頭を撫でられて嬉しそうだった。
ついにはしっぽを振って彼女に飛びついたり、周りを走り回ったりしていた。
美貴も嬉しそうだった。
しゃがんでいた彼女は立ち上がり、犬を追いかけたり追いかけられたりと一緒にはしゃぎだした。
隣のカップルに迷惑なくらい、彼女は、あははと大きな声を出して笑い、その長い黒髪をなびかせ走り回っていた。
美貴は確かに大人な女性だったけど、それは世間での表面的なものにすぎない。
彼女の本質的なものは、周りの子となんら変わりない、ハタチの女の子だった。

