彼女は空を見上げたまま、ズズっと鼻をすすった。
「智、ありがとうね……」
そう言った彼女の目から一粒の涙がこぼれた。
続いて二つ、三つ……一度こぼれ始めた涙は、後から後からとめどなく流れ始めた。
彼女は手の甲を目に押し付け、必死でその涙を止めようとしていた。
それでも涙は止まることなく、赤く染まった鼻を伝い地面に落ちていった。
彼女の体は小さく震え始め、やがて声を出して泣き始めた。
僕はそんな彼女に近づき、ゆっくりと抱き寄せた。
彼女の体が一度ビクッとなり、その後全身の力が抜けたように柔らかくなった。
彼女は体全体で涙を堪えていたのだろう。
それはもちろん僕の為に……。
僕はそんな彼女を子供を抱くように優しく抱きしめた。
彼女の手が僕の腰から背中に回り、彼女もまた僕にしがみつくように抱きしめた。
美貴の頬が僕の鎖骨辺りに触れ、頭は僕の口元にあった。
彼女の涙は熱を持っていた。
息は熱く乱れていた。
僕の手が彼女の頭をゆっくり優しく撫でて、その指は長い黒髪を梳くように埋もれた。
彼女の髪はいい匂いがした。
僕はそこでゆっくりと目を閉じた。
そこから流れ出てきた一粒の涙が、彼女の髪の上に落ちたことを、きっと彼女は知らなかった。

