やがて、国道はちょっとした山道に入っていった。

地図によると、この山を越えると海まではそう遠くはないらしい。


「車好きなんだね」


『うん、運転してなさいって言われたら何時間でも運転できるよ』


僕は笑った。


「そんなに!?」


美貴も笑いながら大袈裟なリアクションをみせた。


『うん。地球一周くらいはできるんじゃないかな』


彼女は、あははと声を出して笑った。

そんな彼女の笑い声を聞いたのは久しぶりだった。

なんだか嬉しかった。


『地元にさ、よく行くドライブコースがあるんだ』


「ドライブコース?」


『うん、車好きな友達がそこに集まってくるから、みんなでそこを走ったりしてるんだ』


「ふ~ん……なんか楽しそう」


『今度一緒に行こうよ』


そう言った時、彼女の返事はなかった。

その沈黙がしばらく続いて、僕は運転しながら彼女の方を見た。

美貴は俯き、膝の上で指を絡ませたりほどいたりしていた。

その仕草を見て僕は初めて自分が無意識に言ったその言葉の意味を知った。


「……いいの?」


目の前の信号が赤になり、車が止まって静かになった時、彼女はそう呟いた。

美貴は俯いたまま膝の上にある指をじっと見ていた。


やがて信号が青になり、クラッチを踏み込みギアをローに入れながら僕は答えた。


『うん、一緒に行こう』


それからしばらく美貴は黙ったままだった。


車が山道を抜けた時、彼女は自分の気持ちに整理をつけたように、勢いよく顔を上げて髪に指を通し耳にそっと掛けた。


「それって……」


彼女は言いかけた言葉をやめた。

何を言おうとしているのかはわかった。

わかっていたけど僕は答えに迷った。


僕は、やっぱり彼女のことを友達としてでしか見ていない。


だけど、この場面でその言葉を口に出すことは、彼女にとってあまりにも残酷すぎる言葉だった。