「ありがとうね、こんな遠くまで連れて来てくれて……」
注文を済ませた後、美貴は改まってというように座ったまま僕にペコリと頭を下げてきた。
『そんなお礼なんか……僕も楽しかったし』
「そう?」
彼女は少し僕の顔色を伺うように訊いた。
『うん、もちろん。いろいろ勉強にもなったし。さっきも言ったけど旅行とか初めてだからさ……』
美貴は声を出して笑った。
『そんなに笑わなくても……でもまぁそういうわけで僕にとってはいい勉強になったし、楽しいわけですよ』
「初めての旅行の相手が私でごめんね~」
『ううん、そんなことないよ。美貴さんとじゃなかったらわからないことだらけでいっぱい恥かくとこだったから』
ワインの入ったグラスが彼女の前に置かれた。
赤というのか白というのか…お酒に関しては無知の僕には、その飲み物がアルコールであるということしかわからなかった。
それは彼女が注文したものだった。
智は?と訊かれたが、お酒が弱いことを自分で知っている僕はそれを断った。
『お酒好きなの?』
「うん。大好き」
そう言って彼女は味見をするように、グラスに口をつけそれを一口飲んだ。
「美味しい」と言って、もう一口、二口とワインを飲んでグラスを置き、ゆっくりと長い髪を一度かき上げた。
彼女がすごく大人っぽく見えた。
そんな彼女の仕草に僕は一瞬ドキッとした。

