虹色のラブレター


部屋に入ってすぐ、僕たちはシャワーを浴びようということになった。

昨日の夜、車で一泊したこともあって体中かなり気持ち悪かった。

僕は美貴に、先にシャワーを浴びるように勧めた。

こんな僕でも一応そういう心得はあったのだ。

美貴は「ありがとう」と言ってすぐに脱衣場の方に入っていった。

季節は真夏だし、彼女も相当気持ち悪かったのだろう。


彼女がシャワーを浴びている間、僕はベッドに座りとりあえずタバコに火をつけた。

初めて泊まるホテル……しかも女の人と二人っきり。

何をしたらいいのかわからなかった。

僕はテストの問題用紙が配られる直前のように緊張し、何も頭に浮かんでこない様な状態になっていた。

手に届く範囲にあるものを手に取って見てみたり、立ち上がって窓から外の景色を眺めてみたり……とにかく落ち着いていられなかった。


それから結局、何も手に付かないまま僕が二本目のタバコに火を点けた時、彼女の声が後ろから聞こえた。


「ごめんね、先に入っちゃって……」


振り返ると、シャワーから出てきたばかりの彼女の姿がそこにあった。

頭からかぶったバスタオルで、濡れた長い黒髪を丁寧に挟むように拭きながら、上目づかいで僕の方を見るその姿はかなり官能的だった。

彼女が、その姿で僕を誘っているとは思えないが、それを無意識に見過ごすことは逆に意識的な努力が必要だった。


『ううん、いいよ。じゃ……僕も入ってくるから』


そう言いながら、僕は点けたばかりのタバコを灰皿に強く押しつけて消した。

普段ならそういう消し方はしない僕のその行動は、明らかに意識的な動きだった。

ベッドから立ち上がった僕は、すれ違う彼女と目を合わせないように脱衣場の方へ入った。

一人になった僕の口からフー……と自然にため息が出ていた。