『うん、いいよ。でも大丈夫?急に休んだりして……』
僕がそう言うと、彼女の表情はパッと明るくなった。
うん、と一度頷いて続けた。
「結構、そういうところ融通が利くの、それに……」
『それに?』
「……も居るし」
彼女が小さく言ったその言葉を僕は聞き取れなかった。
聞き取れなかったというよりも、彼女はその言葉を始めから声にしていなかったように思えた。
『え?何?』
僕が聞き返すと美貴は地面に視線を落とし黙ってしまった。
少しの沈黙があった。
僕はそんな彼女の次の言葉を待った。
「いいの。……じゃ、おばさんに電話してくるね」
「ちょっと待ってて」と言って、美貴は少し先にあった公衆電話の方に駆け足で行った。
電話を済ませて戻ってきた彼女の表情は、いつもと変わらない様子だった。
両手でピースサインをして、大丈夫だったよと笑顔を見せた。
結局、さっき僕が聞き取れなかった言葉を、彼女がもう一度口にすることはなかった。

