「どうしたの?」
彼女と目を合わせられない僕の顔を覗き込むようにして、彼女が訊いてきた。
『え?いや……』
僕は言葉を詰まらせた。
「なんか変だよ?」
彼女はもう一度僕の顔を覗き込む。
『こんな気持ちで……』
「うん」
『こんなことしてていいのかな?って……』
「旅行のこと?」
『うん……』
「私とじゃ……」
彼女は視線を一度地面に落とし、言いかけた言葉を飲み込んだ。
美貴が言おうとした言葉はだいたいわかっていた。
僕の予想が違っていなければ、美貴はきっと自分を責めているのだ。
そんな彼女の言葉を待たずに僕はそれを否定した。
『いや、そうじゃなくて』
「そうじゃない?」
『うん……』
「私といて……楽しい?」
『そりゃ、楽しいよ』
「なら、いいじゃない」
『いや、でもさ……』
美貴は一度その長い黒髪に指を通し、改めて僕の方を見て言った。
「私は智といて楽しいし、智も私といて楽しいならいいじゃない」
『でも、それだけじゃ……』
「いいの。それだけで」
じゃあ出発しましょう、と言って彼女は僕に背を向け、車が停めてある駐車場の方に歩き始めた。
僕はベンチから立ち上がり、そんな彼女の背中を二、三歩遅れて追いかけていった。

